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インボイス制度でフリーランスの年収が10%減るって本当?

こんにちは、イナバウアーです。
消費税の「インボイス制度」ってご存知ですか?

平成28年度税制改正で導入が決まり、2023年10月から始まる制度なのですが、実はこれによってフリーランスの収入が10%近く減る可能性があります

今回はその消費税のインボイス制度によってフリーランスが受ける打撃取り得る対策について整理します。

事前に対策して、少しでも収入減を抑えていきましょう。

目次

1 インボイス制度前の請求書
2 インボイス制度は、そこにメスを入れる!
3 インボイス制度に備えてできること
4 まとめ:インボイス制度でフリーランスの年収が10%減るって本当?
5 (余談)ぼやき
5 課税事業者成りシミュレーターで試算!

インボイス制度前の請求書

フリーランスは仕事の報酬としてクライアントに請求書を発行します。その時多く人は、次のような感じで、「消費税」を上乗せして請求していると思います。

小計 消費税 合計
100,000円 10,000円 110,000円

※ 2019年10月から消費税率は10%

上乗せして請求した消費税(10,000円)ですが、ほとんどのフリーランスの方は、売上1,000万円未満で「消費税免税事業者」。つまり、消費税の納税は免れるので、この預かった消費税はそのまま収入になるんですね。

インボイス制度は、そこにメスを入れる!

この「免税事業者が請求する消費税」にメスを入れるのが、今回のインボイス制度です。

インボイス制度が始まる2023年10月以降、請求書に消費税を記載していいのは、登録手続きを済ませた課税事業者のみ

つまり、消費税免税事業者は、課税事業者にならない限り、請求書に消費税を記載できなくなります。

収入10%減の可能性有り!

その結果、消費税免税事業者の請求書は、次のようになります。

小計 消費税 合計
100,000円 10,000円 110,000円 100,000円

何もしなければ、単純に10%弱の収入減ということです。。(厳密には9.09%)

例えば、消費税上乗せ後の年間売上が400万円だった場合、その影響額は「36万円」。


400万円 - (400万円 / 1.1) = 約36万円

これだけの年収減って普通に痛いですよね。

インボイス制度に備えてできること

免税事業者のフリーランスが、この10%弱の収入減に備えてできることは何でしょうか?

考えられる対策は、次の2つです。

  1. 課税事業者になる
  2. 免税事業者のまま交渉する

1. 課税事業者になる

課税事業者になって必要な手続きを済ませれば、引き続き、消費税分をクライアントに請求できます。

ただし、当たり前ですが、クライアントから預かった消費税は、後に消費税として納税しなければいけなくなります。

納税すべき金額の計算

消費税の納税額は、次のように計算します。

預かった消費税 – 支払った消費税(経費など) = 納税すべき金額

例えば、年間売上が400万円、年間経費が150万円だった場合、


預かった消費税:400万円 - (400万円 / 1.1) = 約36万円
支払った消費税:150万円 - (150万円 / 1.1) = 約14万円

納税すべき金額:36万円 - 14万円 = 22万円

納税すべき金額は「22万円」で、何もしない場合(36万円の年収減)より支払った消費税分(14万円)だけ節税できます。

もちろん消費税額の計算や申告の手間は増えますが、freee や MF クラウドなどの会計システムを使えば、ここら辺もある程度簡単に済ませられます。

簡易課税でより簡単に、よりお得に!

簡易課税制度は、「支払った消費税」をざっくり計算することが認められる制度です。

これを利用すれば、より簡単に消費税額を計算できます。具体的な計算式は次の通りです。

預かった消費税 x みなし仕入率 = 支払った消費税

みなし仕入率は、業種ごとに異なります。

第一種事業(卸売業)90%
第二種事業(小売業)80%
第三種事業(製造業等)70%
第四種事業(その他の事業)60%
第五種事業(サービス業等)50%
第六種事業(不動産業)40%

多くのフリーランスは「サービス業」に該当するので、みなし仕入率は「50%」。

これを上の例にあてはめると、納税額は次のように計算されます。


預かった消費税:400万円 - (400万円 / 1.1) = 約36万円
支払った消費税:36万円 x 50% = 約18万円

納税すべき金額:36万円 - 18万円 = 18万円

納税すべき金額は「18万円」で、さっきよりも4万円安くなりました。これは、ざっくり計算した「支払った消費税」が、実際の金額より大きかったからです。

普通のフリーランスにとって、仕入れ・経費で支払う消費税額が、預かった消費税の50%を上回るケースは稀です。なので、ほとんどの場合は、簡易課税制度を利用すれば、消費税の納税額をより安くできます。

事業年度の開始までに税務署に届け出れば、その年から簡易課税制度を利用できます。インボイス制度に照準を合わせて、2023年から利用するなら「2022年12月31日まで」ということですね。

簡易課税制度の届出の様式 → こちら

(注意)基準期間の売上が5,000万円を超える方は、簡易課税制度を利用できません。

所得税・住民税も少し安くなる

課税事業者になれば、消費税を納税する分、所得税・住民税が少し安くなります。

これは、「事業所得」の金額が消費税の納税額分だけ小さくなるからですね。

例えば、年間売上が400万円、年間経費が150万円、青色申告控除が65万円だった場合、


(免税事業者)
事業所得:400万円 - 150万円 - 65万円 = 185万円

(課税事業者)
事業所得:400万円 - (150万円 + 消費税 22万円) - 65万円 = 163万円

課税事業者の方が、消費税の納税額分(22万円)だけ所得金額が小さくなります。

そして、この場合の所得税率は5%、住民税率はだいたい10%です。

(参考)所得税の税率 → こちら

計算してみると、課税事業者になることで、所得税・住民税が3万3千円安くなることが分かります。


所得税・住民税:△22万円 x (5% + 10%) = △3万3千円

なお、簡易課税を利用した場合は、消費税の納税額は「18万円」なので、所得税・住民税の節税額は2万7千円になります。


所得税・住民税:△18万円 x (5% + 10%) = △2万7千円

個人事業税も少し安くなりますが、ここでは割愛しています。

結論:課税事業者になると年収減は5%以下に!

上で見たとおり、課税事業者になれば、支払った消費税分を節税できるだけでなく、消費税の納税分だけ事業所得を小さくできます。

その結果、年間売上が400万円、年間経費が150万円の場合、最終的な税負担は「18万7千円」となり、年収減を10%弱 → 5%弱に抑えられます


消費税:22万円
所得税・住民税:△3万3千円

税負担: 22万円 - 3万3千円 = 18万7千円

さらに、簡易課税を利用すれば税負担は「15万3千円」まで下がり、年収減は4%弱に留まります。


消費税:18万円
所得税・住民税:△2万7千円

税負担: 18万円 - 2万7千円 = 15万3千円

もちろんケースバイケースですが、基本的には、課税事業者になって簡易課税を利用するのが得策だと言えます。

追記:試算ツールを作りました(2019-12-09)

課税事業者になることで見込まれる手取りの増加額を試算するツール「課税事業者成りシミュレーター」を作りました。

確定申告書から数値を入力するだけで、所得税・住民税・事業税の減額も考慮したインボイス制度の影響額を計算できます。

2. 免税事業者のまま交渉する

免税事業者として、事前にクライアントと交渉することも考えられます。

上乗せしている消費税も含めた金額が「報酬」となるように契約を更新してもらえれば、免税事業者のまま今の収入をキープできますよね。

ただしこの場合、あなたの「報酬」に消費税が含まれなくなるので、クライアントの「支払った消費税」が減り、結果としてクライアントの「納税すべき金額」が増えてしまいます。(上で見た計算式の通りです。)

簡単に言うと、あなたが損するはずだった消費税分をクライアントが被ることになるので、これはある種の値上げ交渉です。

経過措置で計算上の影響はゼロ

この点、一応経過措置はあって、免税事業者(あなた)の請求書に消費税が含まれていなくても、2023年10月1日〜2029年9月30日の間、クライアントは一定の金額を「支払った消費税」として扱うことができます。

具体的には次の通りです:

  • 2023年10月1日〜2026年9月30日:支払った消費税(相当)の80%
  • 2026年10月1日〜2029年9月30日:支払った消費税(相当)の50%

つまり、2026年9月30日までは、消費税8%の時代と同じ金額を「支払った消費税」とみなして消費税の納税額を計算できます。増税前の現時点と比較すれば、計算上の影響はゼロということですね。

ここら辺を材料にして上手く交渉すれば、現在上乗せしている消費税も含めた全額を「報酬」としてもらえるかもしれません。

ただ、ここら辺をうまく交渉に盛り込むのは、実務的には難しそうな気はします。

まとめ:インボイス制度でフリーランスの年収が10%減るって本当?

残念ながら、本当です。

インボイス制度が始まる2023年10月1日以降、何もしないとフリーランスの年収は10%近く減ってしまいます。

ただし、ある程度の対策は可能です。課税事業者になって引き続き消費税を請求できるようにすれば、年収減は半分以下に抑えられます。また多くの場合、簡易課税制度を利用すれば、さらなる節税が見込めます。

経過措置を材料にして、免税事業者のままクライアントと契約金額を交渉するのも1つのやり方でしょう。

少しでも年収減を食い止められるように、2022年までにしっかり準備しておくことが大事です。

(余談)ぼやき

フリーランス白書(2018)によると、日本国内にフリーランスは約1,000万人いて、国内労働力人口の約6分の1を支えているそうです。(働き方改革にも貢献してます!)

その貴重な人材をしれーっと年収10%減のリスクにさらすっていうのは、どうなんでしょう。。8%→10%の増税は、軽減税率などで低所得者を配慮していますが、「1,000万人の年収10%減」って同じぐらいインパクト強くないですか?

「今まで受け取ってた消費税が益税なんだから、これからはちゃんと納税しろ!」と言われれば、そりゃそうなんですが、そもそも「小規模ビジネスの事務負担軽減」を考えての免税措置だったので、ここで税の正確性を振りかざすのは少し違うと思います。

また、「会計システムのおかげで小規模ビジネスの事務負担は少なくなった」という意見もあるようですが、多くの人にとって消費税の計算・申告は複雑なもので、全体的な仕組みを理解するのは、けっこう難しいと思います。

そういう様々な反発を見据えて、経過措置を用意しているのでしょうが、増税あり気で狙い撃ちされた感は拭えませんねぇ。

まぁ、決まったことなので、それを受け入れるしかないのですが。。

課税事業者成りシミュレーターで試算!

課税事業者成りシミュレーター」は、確定申告書から数値を入力するだけで、所得税・住民税・事業税の減額も考慮したインボイス制度の影響額を計算できるツールです。

誰でも無料でお使いいただけます。少しでも年収減を食い止められるように、2022年までにしっかり準備しておきましょう!

References

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